ケアマネジャーという仕事をしていると、さまざまなご家庭のドラマに立ち会います。
世間一般では「ケアマネって大変そう」「業務の割にお給料が安い」なんて言われることも多いですが、現場でご家族から心底感謝された瞬間、そんな苦労は一瞬で吹き飛んでしまうんですよね。
今回は、先日あるご家庭のモニタリング訪問で起きた、忘れられない出来事について書いてみようと思います。
「父の介護とは、全然違うんです」
そのお宅は、認知症のお母様と、50代の娘さんの二人暮らし。
お父様が亡くなられた後、お母様の認知症が進行し、娘さんが介護を引き受けることになりました。実はこの娘さん、以前にお父様の介護も経験されている「介護経験者」です。
しかし、今回の介護は以前と全く違っていました。
一番の理由は、「母と娘の、昔からの性格の不一致」です。
お世辞にも昔から仲が良いとは言えなかった二人。お母様は昔から少し自分勝手なところがあり、娘さんはずっと我慢を重ねて生きてこられました。年齢を重ねてお互いに頑固になったこともありますが、何より「性格が合わない」という壁が、介護生活において何よりも大きな負担となって娘さんに重くのしかかっていたのです。
特に大変だったのが、デイサービスの利用でした。
お母様は少しでも気に食わない利用者やスタッフがいると、「あそこには二度と行かない!」とすぐに事業所の変更を希望されます。これまでに何箇所もデイサービスを変えてきました。
そのたびに、娘さんは私やサービス事業所に電話をかけ、頭を下げて謝り続けておられたのです。
「母がご迷惑をおかけして、本当にすみません……」
電話越しに聞こえる娘さんの絞り出すような声。
実の親のわがままのしわ寄せを全て受け止め、あちこちに謝罪して回る精神的負担は、察するに余りあるものがありました。先の見えない介護の中で、娘さんの心は限界寸前まで擦り減っていたのです。
本人の部屋を出たあと、玄関先で話したこと
とある月のモニタリング訪問の日。
お母様の部屋で状態を確認し、いつものように穏やかに会話を終えた後、私は玄関先で娘さんと二人きりになりました。
疲れ切った表情で深いため息をつく娘さん。
長年ケアマネジャーをやっていると、こうしたご家庭の空気感や、介護者がどのフェーズで苦しんでいるのかが痛いほどよく分かります。
認知症の介護において、実は一番ご家族の負担が大きくなる時期があります。
それは、「まだ体に動きが効いて、ある程度の意思表示や自己主張ができる時期」です。
動けるからこそ徘徊や暴言、拒否が起きる。主張ができるからこそ、周りとの衝突が生まれる。家族にとっては、24時間気が休まる暇がない一番つらい時期なのです。
私は玄関先で、ごく自然に、でも心を込めてこう伝えました。
「〇〇さん、お母様がこうしてしっかり動けて、自分の意見を主張できる今の時期が、実はご家族にとって一番負担が重くてつらい時期なんですよ」
娘さんがハッとした表情で私を見つめます。私は言葉を続けました。
「でもね、この状態が永遠に続くわけではありません。介護には必ず波があって、この一番大変なフェーズもずっとは続かないんです。今が一番の山場なんですよ」
「将来の見立て」が、家族の安心に変わる
後日、娘さんから連絡をいただきました。
「竹谷さん、あのとき玄関でかけてくださった言葉に、本当に救われました。『このつらさは永遠じゃない』『今が一番大変な時期なんだ』と教えてもらえたことで、暗闇の中に光が差した気がしたんです。将来の見通しがついて、心がふっと軽くなりました」
その言葉を聞いたとき、胸が熱くなりました。
新人だった頃の自分なら、ただ「大変ですね」「お母様にも困ったものですね」と共感することしかできなかったかもしれません。
しかし、10年以上の経験を積み、さまざまなケースを見届けてきたからこそ、「この介護の先にある未来の見立て」を提示することができたのだと思います。
難しいことや、これまでのケースを詳しく説明するより、「この先どうなっていくのか」という見通しを伝えるだけで、追い詰められたご家族に大きな安心を届けることができる。
自分の積み重ねてきた経験が、誰かの心を救う力になれたことが、心から嬉しく思いました。
ケアマネジャーという仕事の本当の価値
ケアマネジャーの仕事は、書類作成や多職種との調整など、地味で大変な作業もたくさんあります。
「仕事の割にお給料が合わないよね」なんて同業者と愚痴をこぼし合うことも、正直ゼロではありません(笑)。
けれど、限界まで追い詰められていたご家族から、心底からの感謝の言葉をいただいた瞬間。
胸の奥から湧き上がる達成感と温かい感情は、どんな対価にも代えがたいものがあります。
「あぁ、この仕事を続けてきて本当に良かったな」と、すべての苦労が吹き飛んでしまうのです。
認知症介護の暗闇の中で悩んでいるご家族に、そっと明かりを灯すような言葉を届けること。
それこそが、ベテランケアマネジャーとしての私の役割であり、この仕事の本当のやりがみなのだと再確認した一日でした。
これからも、目の前の利用者様とご家族の「笑顔の未来」のために、やることやってスマートに前前捌きしていきたいと思います!












